乳酸菌の研究 GCL1815株の発見

研究風景

●Glicoの研究開発

研究風景

Glicoグループは「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現を目指し、素材に基づくおいしさと健康の価値を創出するため、科学的に実証する活動を進めています。

●乳酸菌の研究

研究風景

乳酸菌は、糖質を分解して乳酸を作る菌です。多種多様な乳酸菌は、人の体に良い働きをする善玉菌が多く、腸内細菌のバランスを良くして腸の調子を整えます。Glicoは乳酸菌入りの「ヨーグルト健康」を発売した1969年以降、発酵による風味の研究や、乳酸菌の新種の探索などの研究活動を続けています。2000年頃からは、乳酸菌の免疫機能に着眼し、乳酸菌の菌体成分や代謝系を活用した健康機能の研究を進めています。

Glicoは免疫機能を高め、風邪の発症予防につながる乳酸菌GCL1815株を発見しました。

1)ヒト細胞を用いて乳酸菌を選抜した結果、GCL1815株が次に示す3つの評価の全てで優れた結果を示しました

・ウイルスや細菌などの病原体の感染を防ぐ抗体の一種「イムノグロブリン(Ig)A」の産生を誘導する力
・免疫細胞に指令を出す「樹状細胞」を活性化する力
・免疫機能を調整する「インターロイキン(IL)-12」の産生を誘導する力

2)ヒト試験において、GCL1815株を継続して8週間摂取すると風邪の発症予防につながることを確認しました


●論文1 免疫機能を高める乳酸菌GCL1815株を選抜

GCL1815株の電子顕微鏡写真

図1.GCL1815株の電子顕微鏡写真

研究の概要

乳酸菌の探索にあたり、免疫への作用を高精度で推定するために、3つの免疫指標(①IgA産生誘導、②樹状細胞活性化、③IL-12産生誘導)で評価し、GCL1815株を選抜しました。(図1)

研究方法

Glicoが収集してきた菌株(約1万株)の中から、食品に使用される菌種であり、標準的な乳酸菌の培地でよく育つ308株の乳酸菌を選抜し、そのうえで免疫に関する評価試験を次の3つの指標で行いました。試験には、熱処理によって殺菌した菌体を用いました。

研究結果

① IgAの産生を誘導する能力が高い
IgAは、抗体の一種です。IgAが多く産生されるほど、ウイルスや細菌などの病原体の感染を防ぐ能力が高まります。 IgAを産み出す細胞であるヒト末梢血単核細胞(PBMC)に、308株それぞれの乳酸菌を加えて、培養液に産生されたIgA濃度を測定しました(酵素結合免疫吸着測定法、ELISA)。その結果、対照群と比較して高いIgA産生を示す上位15株を探し当てました。
次に、ボランティアの血液から得たPBMCに、乳酸菌15株をそれぞれ加えて、同様にIgA濃度を測定したところ、8株はIgA濃度が有意に高い値を示しました。特に、GCL1815株は、対照群と比較してほぼ2倍高いIgA濃度となりました。

② 樹状細胞を活性化する能力が顕著
樹状細胞のうち、従来型樹状細胞(cDC)は多様な機能があり、T細胞に感染した細胞に攻撃するよう命令する機能があります。cDCの活性が高いほど、侵入した病原体の増殖がT細胞の働きで抑えられる可能性が高いことを示します。 ​
cDCの活性の高さを、cDC様細胞(実験的に用意した、cDCのような性質の細胞のことを表します)に発現するCD86の強度で評価しました。①で選んだ乳酸菌15株それぞれを加えた時のCD86の発現強度を、フローサイトメーターを用いて比較しました。乳酸菌15株中13株でCD86の発現が対照群よりも有意に高く、さらにGCL1815株を含む5株については2倍以上高い発現を示しました。

③ IL-12の産生を誘導する能力が高い
IL-12は、免疫機能の調節をするサイトカインと呼ばれるタンパク質の一種です。IL-12はNK細胞やT細胞に感染した細胞への攻撃命令を出すことから、IL-12が多く産生されるほど、病原体の増殖がより効果的に抑えられます。
それぞれの乳酸菌を加えた時にcDC様細胞が産み出すIL-12濃度を、ELISAで測定し比較しました。その結果、GCL1815株は対照群よりも有意に45倍以上高いIL-12濃度を示し、強力にIL-12を産生させました(図2)。

本研究の論文情報
Tsuruno K, et al. Screening of novel lactic acid bacteria with high induction of IgA production, dendritic cell activation, and IL-12 production. Biosci Biotechnol Biochem. Volume 89, Issue 3, March 2025, Pages 459–464.


●論文2 GCL1815株の風邪の発症予防効果を検証

研究の概要

GCL1815株が風邪の自覚症状に及ぼす影響を評価することを目的に、ヒト試験を実施しました(表)。 GCL1815株を継続して8週間摂取することで、2種類の樹状細胞の活性化が誘導され、風邪の発症予防につながる可能性が示されました 。

ヒト試験のまとめ

研究結果

① 風邪の症状に対する効果
 風邪の自覚症状の累積発症日数が有意に減少
試験期間の累積日数(解析対象の96人×56日=5376日)のうち、風邪の自覚症状があると回答した人の日数の累計は、対照群で1116日だったのに対して、GCL1815群では938日と、有意に少ない結果が得られました(p<0.001,Chi-Square Test)。

 風邪の自覚症状が減少
症状別の累積日数を評価した結果、風邪の次の自覚症状において発症数が有意に減少することが確認されました(p<0.05,Chi-Square Test)。
・全身症状:熱っぽさ、疲労感、倦怠感
・部位別症状:鼻水、鼻づまり、痰(たん)

② 免疫機能に関する評価
体には、侵入した病原体などの様々な異物を防御する自然免疫と、生きていくなかで体が特定の異物を記憶して排除する獲得免疫が備わっています。樹状細胞は、自然免疫と獲得免疫のそれぞれを調整する細胞です。風邪の症状の減少につながる免疫機能への作用を明らかにするために、試験参加者の樹状細胞の活性化を示す指標を評価しました。

 プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の活性化
pDCは、ウイルスを認識すると大量のI型インターフェロン(サイトカインの一種)を産生し、抗ウイルス状態を誘導することが知られている細胞です。GCL1815群では、摂取4週目と8週目において、pDCの活性化指標(HLA-DR)の変化量が有意に高い値を示しました(図3)。

 1型従来型樹状細胞(cDC1)の活性化
cDC1は、T細胞と抗体産生細胞に働きかけ、最終的にウイルス感染細胞の排除を促すことが知られています。GCL1815群は、摂取8週目においてcDC1の活性化指標(HLA-DR)の発現量が有意に高い値を示しました(図4)。

活性指標の変化の図

本研究の論文情報
Wada H, et al. Lactobacillus helveticus Induces Two Types of Dendritic Cell Activation and Effectively Suppresses Onset of the Common Cold: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. Nutrients. 2024, 17(1), 101.