アーモンド研究の第一人者が語る「4つの注目成分」とは

メインビジュアル 井上氏、藤井氏2人お写真

(プロフィール)
右:慶應義塾大学医学部化学教室教授 医学博士 理学博士 井上浩義氏
九州大学理学部化学科卒業。同大学院理学研究科博士課程修了。専門は薬理学、原子力学、高分子化学。食と健康についての造詣が深く、企業や一般人向けのセミナーの講師を数多く務める。著書に『食べても痩せるアーモンドのダイエット力』(小学館)、『「老けない」「太らない」アーモンドミルクできれいに生きる』(主婦と生活社)など。

左:日経BP 総合研究所 副所長 コンサルティングユニット長 メディカル・ヘルスラボ所長 藤井省吾氏
1989年東京大学農学部卒業、91年東京大学大学院農学系研究科修士了、農学修士。91年日経BP入社。『日経メディカル』記者、『日経ヘルス』副編集長、『日経ヘルス』編集長を務める。『日経WOMAN』、『日経ヘルス』、『日経DUAL』、『日経ウーマンオンライン』に携わり、『日経Gooday』を立ち上げた。18年4月から日経BP総合研究所副所長。

16年以上前からアーモンドの若返り効果に注目し、研究を重ねてきた慶應義塾大学の井上浩義教授。アーモンドの魅力に気づいたきっかけから、注目すべき4つの成分とその働き、そして理想のとり方まで、日経BP 総合研究所の藤井省吾氏が聞きました。

1日25粒のアーモンドで肥満抑制&美肌に

藤井:まさに今、アーモンドミルクへの注目度が非常に高まっていますが、井上先生は16年以上も前からアーモンドの研究を始め、「1日20〜25粒のアーモンドを摂ろう」と提唱されていますね。井上先生はどんなきっかけでアーモンドに着目されたのでしょうか。

井上:2004年にカリフォルニアで学会があった際に、アーモンド農家に宿泊させてもらったのです。一般に、農業や漁業に従事される人は強い紫外線の影響で深いシワやシミが多いものですが、その農家の皆さんの肌は驚くほど若々しく、きれいでした。理由を尋ねると、「毎日アーモンドを食べているからだ」と。その時はジョークだと思ったのですが、帰国して調べてみると、アーモンドには健康や美容を支える成分がたくさん含まれている。これはひょっとすると……と思い、研究を始めました。

藤井:紫外線のダメージを受けても美肌を保つパワー、気になりますね。注目されたのはどの成分ですか。

井上:私が最初に着目したのは、「食物繊維」と「ビタミンE」です。

藤井:食物繊維は、日本人に不足している栄養素の代表とも言える栄養素ですね。日本人は、戦後の頃は食物繊維を1日あたり20gも摂取していたのに、現在では14g以下になっています。

井上:欧米の栄養学の教科書には、「世界の食物繊維の摂取量は20〜80g」と書かれています。つまり日本人の食物繊維摂取量は、世界平均の最低ラインにも達していないのです。

藤井:食物繊維が不足すると、どんな健康リスクがありますか?

井上:悪玉コレステロールの増加や便秘など、さまざまです。また、日本の国立がん研究センターの研究では、食物繊維の摂取量が極端に少ない女性は、多く摂取する女性に比べて大腸がんのリスクが2.3倍も高いということがわかっています。

藤井:食物繊維の摂取を増やすには、どうしたらよいのでしょうか。

井上:食事を見直すのも大切ですが、間食でも食物繊維の豊富なものを選びたいですね。例えばナッツ類、中でもアーモンドは食物繊維が豊富で、25粒で約3gの食物繊維が含まれています。

食品別の食物繊維量 説明画像

食品100gあたりの食物繊維の量の比較。食物繊維が豊富で知られるごぼうやしいたけよりも、アーモンドの食物繊維含有量は多い。日本食品標準成分表2020年版(八訂)より。(期間は6か月間)

藤井:アーモンド25粒のエネルギー量は約150kcal。毎日食べ続けると太りませんか?

井上:まったく問題ありません。私たちは2011年8月から翌年1月にかけて男女8名に1日25粒のアーモンドを食べてもらうという試験を行いました。体型は1名を除き、みんな中肉中背です。アーモンドを食べる以外は普段通りの生活をしてもらいました。最初の3カ月間では、普段の食事にプラスして食べる人が多かったため、体重が増加してしまいました。しかしその後、自然に間食を調整するようになり、結果的に体重が平均2.9kgも減少しました。

藤井:2.9kgはすごいですね。なぜ体重が減ったのでしょうか。

井上:アーモンドを食べることで満足感が得られ、他の間食が減ったことが一つ。さらに食物繊維の働きで便通が改善したことも、肥満抑制につながったと考えています。ですから、ダイエット効果を期待するなら最低でも3カ月以上は「毎日25粒のアーモンド」を続けてほしいですね。さらに別の試験では、アーモンド入りのチョコレートを継続してとることによって肌のターンオーバーが向上するという結果が出ました。これにはチョコレートのポリフェノールなども寄与しているかもしれません。

藤井:つまり、肌が若々しく見えるということでしょうか。「アーモンド農家の方は肌が若々しい」というお話と関連しそうですね。

井上:その通りです。試験では、目尻の小ジワの写真を顕微鏡で分析しました。小ジワの部分には、古くて大きな細胞と、若い小さな細胞が混在して溝ができ、そこが影になることでシワに見えます。ところがアーモンドチョコを摂取した人では、ターンオーバーが改善し、生まれる細胞が有意に増えました。その結果、小さな細胞がきれいに並んで溝が浅くなり、小ジワが減ったのです。

アーモンドの臨床研究におけるAGE変化 説明画像

井上氏らの試験では、体重とともに糖化の指標である「AGE」も減少した。糖化は、酸化とともに老化の原因の一つ。アーモンドの摂取によって糖化が抑えられたことも、肌の若々しさにつながったと考えられる。

ビタミンEで日々のエイジング&ストレス対策を

藤井:アーモンドの摂取によって、なぜ肌のターンオーバーが正常化したのでしょうか。

井上:食物繊維に加えて、ビタミンEやポリフェノールが関係していると考えられます。

藤井:まず、ビタミンEについてお聞きします。ビタミンEはどのように作用して、肌の若さを保つのですか?

井上:呼吸をして酸素が取り込まれると、体内に「活性酸素」や「フリーラジカル」が生じます。これらが細胞の表面を覆う油の膜や、細胞内のタンパク質と結びつくと「酸化」が進み、細胞が傷ついてしまいます。肌の細胞が傷つくと、シミやシワ、たるみの原因となります。しかし、ビタミンEには活性酸素などを除去して、細胞を酸化の害から守る力があるのです。これが「抗酸化力」と呼ばれるものです。

食品別のビタミンE 説明画像

アーモンドのビタミンE含有量は食品の中でトップクラス。つまり、アーモンドは強力な抗酸化食品ということになる。日本食品標準成分表2020年版(八訂)より。

藤井:酸化の原因である活性酸素やフリーラジカルの発生を止めることはできません。だから、抗酸化力の高いビタミンEをとることで、酸化の害を防ごうということですね。

井上:その通りです。活性酸素は、呼吸以外にも紫外線やストレス、ケガや病気など、さまざまな要因で発生しますから、私たちはビタミンEなどを意識してとる必要があります。

藤井:ビタミンEは体内にどれくらいとどまるものですか?

井上:摂取してから半日〜1日は大丈夫。ビタミンEと同じように抗酸化力の強いビタミンCに比べて、体内に長くとどまります。また、ビタミンEは脂溶性なので、油でできている細胞膜を通過しやすく、細胞の内部に届きやすいという特徴もあります。

毎朝のアーモンドで、抗酸化力をキープ

藤井:アーモンドに含まれる注目成分の3つ目はポリフェノールということですが、どんな効果があるのでしょうか。

井上:ポリフェノールはビタミンEと並んで、強い抗酸化力を持つほか、血流や脂肪燃焼を促す作用もあります。さらに最近、ポリフェノールをしっかりとっている人は、新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくいという論文が出ました。別の報告では、ポリフェノールは飲酒したときに、消化管から肝臓にアルコールが運ばれるのを抑えたり、肝臓への負担を和らげたりする働きがあるとも言われています。

藤井:それは素晴らしい(笑)。お酒のつまみにアーモンドというのは、理にかなっているのですね。

井上:ポリフェノールは吸収されやすく、食べてから20分〜1時間で血中濃度が上がるという研究があります。お酒を飲むときにもよいですが、朝にとる習慣をつけるといいですよ。私は1日25粒のアーモンドのうち半分を毎朝、サラダにかけて食べています。

藤井:なぜ、朝にアーモンドをとるとよいのですか?

井上:私たちの体は、午前中に酸化されやすいからです。睡眠中の呼吸数は1分間に6〜12回ですが、起きると1分間あたり12〜20回と、約2倍に。呼吸によって取り込む酸素が増えれば、それだけ活性酸素ができやすくなるのです。また、日中は紫外線によってさらに酸化ダメージが蓄積します。それに備えて、朝にアーモンドを食べているんです。

藤井:残り半分のアーモンドはどのようにとっていますか?

井上:午後に間食として食べています。午後2時〜4時頃は眠気がさしたり、作業効率が落ちたりしがち。そんなときにアーモンドを噛み砕くと、咀嚼効果で頭がすっきりするのです。アーモンドは腹持ちがいいので、他に間食をとらなくても夕食まで空腹は感じません。

藤井:実際にアーモンドをアンチエイジングや健康維持に役立てていらっしゃるのですね。

アーモンドには血管のしなやかさを取り戻す働きも

井上:さらに、アーモンドを食べるとオレイン酸という不飽和脂肪酸も摂取できます。これも現代人にとって非常に有益な成分です。

藤井:オレイン酸はオメガ9系の不飽和脂肪酸、体にいい油の一種ですね。どんな働きがあるのでしょうか。

井上:アーモンドの55%は油ですが、そのうち約70%がオレイン酸です。オレイン酸はLDLコレステロール、いわゆる悪玉コレステロールを減らし、血管のしなやかさを取り戻すのに役立ちます。

藤井:血管のしなやかさが失われて硬くなった状態、いわゆる動脈硬化は、高血圧や脳卒中、心疾患など、さまざまな病気を招きます。そうした病気にならないためにも、オレイン酸を積極的にとらなければいけませんね。

井上:アーモンドにはカリウムも豊富です。カリウムはミネラルの一種で、余分な水や塩分を排出することで高血圧を正常化したり、血管を広げたりする働きがあります。また、ビタミンEとポリフェノールは活性酸素などを除去することで、動脈硬化を抑制します。アーモンドを食べると、さまざまな角度から血管の健康を守ることができるのです。

「アーモンド+水分」がいい理由

藤井:アーモンドの栄養をより効率よく摂取するには、どのように食べるとよいですか?

井上:私はアーモンドをすりつぶし、水を加えて乳化させたもの、つまりアーモンドミルクを推奨しています。アーモンドは細かく砕けば砕くほど、含まれる栄養を吸収しやすくなります。例えば、オレイン酸の吸収率は、粒で食べるよりもアーモンドミルクの方が2倍以上高くなります。

藤井:咀嚼力の弱い子どもや高齢者、女性でも、アーモンドミルクならとりやすいですね。

井上:アーモンドミルクを飲むと、アーモンドの栄養とともに水分も摂取できます。水分をとれば血流が増えて、全身に栄養がくまなく行き渡りますし、肌もみずみずしくなります。また、高齢者を中心に増えている腎臓病の予防のためにも水分の摂取は有効です。

藤井:今、高齢者の栄養状態が問題になっています。市販の惣菜に白米などの簡単な食事をとる人は食物繊維が不足したり、質の悪い油をとっていたりと、栄養バランスが乱れてしまうのです。アーモンドミルクを習慣にすることで、食生活を見直すきっかけになるかもしれません。

井上:日本人の食生活は昔に比べて向上していると考えられていますが、栄養学的に見ると、食物繊維やビタミンE、ポリフェノールなどは不足しています。それらの欠落したピースを補い、若さや健康を手に入れるための一助として、アーモンドやアーモンドミルクを活用してみるのもいいと思います。