ファン へインさんの2023年度第1回レポート

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Glicoは、プロのレーシングドライバーを目指してTAKUMA KIDS KART CHALLENGE(タクマ キッズカートチャレンジ)に参加する子どもたちのために、もっと支援できることがないかと考えました。プロのレーシングドライバーになるには、相当な厳しい道のりと狭き門をくぐり抜けなければなりません。Glicoは、佐藤 琢磨選手と検討を重ね、子どもたちの夢への第一歩をサポートするプログラムを2020年より始動しました。​
2023年度は小野原 悠さん、濱邉 誠己さんに加え、2022年TAKUMA KIDS KART CHALLENGE アカデミーで優勝した黄 海仁(ファン ヘイン)さんの活動をサポートしています。
3選手それぞれが将来の夢に向かって挑戦する様子を、各選手からレポートをいただきましたのでご紹介いたします。

【ファン へインさんの2023年度第1回レポート】
・・・・・以下、レポート内容・・・・・

タクマキッズカートアカデミーで1位をとったのは昨年のこと。
それは僕の人生で一番嬉しかった出来事でした。
今年に入り、グリコさんからのサポートを受けることが決まった時、グリコさんからサポートを受けている他の選手とは違う気持ちが僕にはありました。
僕は他の選手と違って一人だけ外国人。
でも頑張って努力したら、地球のどこに生まれても認めてくれる人たちがいる、それを知れたことがとても嬉しかったです。
僕もいつか同じように誰かにお返しできるような人間になりたいと思ったし、頂いた気持ちを無駄にしないようにしたいと思いました。

今年に入って、両親と色々な話をしました。
僕の新しいステップの為にどういう戦略をたてていくのか、また結果をどう出すか。
それを今年の最後には表せるように、一年を大切に過ごそうと思いました。
今年のファーストステップは瑞浪に出ることに決めていたのでまずはそこで多くの事を学ぶつもりでエントリーしました。

試合前日練習

初めての瑞浪、エンジンを回す音、ガソリンの匂い、テントの多さ。
全てがレンタルカートの時とは違い、その場所にいるだけでもわくわくが止まりませんでした。
明日の試合に向けて練習に来ている同じカテゴリーの選手の姿、今まで戦ってきた仲間たちがいない環境は僕にとって良い刺激になりました。

午前中はまず、瑞浪のコースに慣れることから始めました。
瑞浪のコースはストレートが長く、中速コーナーが多く難しいコースだと思いました。
自分にとってベストなラインを探すために、ピットに戻っては映像を確認し、その都度修正を繰り返す作業をチームの先生と一緒にしました。
僕の走りに合わせて色々なセッティングを試したりしたけれど、他の選手とのタイム差が一秒以上もあり、なかなか思うようにタイムが縮められませんでした。
その後、タイヤを交換してもタイムが全く縮まらなかったので、最終的にエンジンを変えることにしました。
何度も調整を重ね、何とかトップの子と0.5秒まで縮めることができました。

練習中に気付いたことは、僕の場合、セッティングをどんなに工夫してもストレートで伸びずに差が広がってしまい、またスリップを使おうとしても広がってしまうので自分の得意なコーナリングとブレーキングを活かして、そこで差を縮め、ストレートに入る前に抜かす戦略を考えました。
練習が終わったあとに、チームの先生から明日は雨の予報だから、0.5秒くらいはレースで何とかカバーして頑張れ!と励まされたので、その日の夜はずっとバトル展開を頭の中でシミュレーションしていました。

関係者と打合せをするファンへインさん

初めての公式戦

3月25日、当日のコンディションは天気予報通りヘビーウェットでした。
霧も多く、視界も白くぼやけた状況で前が何も見えない状況でした。

100台以上のカートが集結  Mini Maxだけでも22台、日本国外からも選手が来ていました。
韓国チャンピョンの子や台湾の選手とも会って、海外のカートの情報を教えてもらいとても勉強になりました。
カートの準備をしている最中に、どんどん雨が降ってきて「今日は中止になるかも」と周りで話している人達がいたので、これ以上雨が降って中止になる前に早く走り終わりたい気持ちでいっぱいでした。
その後、まるで僕の気持ちが届いたかのように、練習走行とタイムトライアルがすぐに始まりました。

カートに乗り込むファンへインさん

路面はほとんど水たまりで、走れば水しぶきがかかる状態、ラインを変更して調整しても何も変わらず、とにかく普通に走るのがやっとの状態でした。
それでも何とかタイムを上げるために、早い子のラインを参考にしながら走りました。
順位は11位、ちょうど真ん中くらいの結果となりました。

予選ヒート1

セッティングはそのままで、空気圧だけ調整し直して参戦しました。
大雨の中、隊列が上手く整わず何度もローリングスタートのやり直し。
どの選手も緊張が長く続いた後、3回目にしてようやくスタートしました。

スタートの時点で2台に抜かされたけど、慎重に1台ずつ抜かしていき、9位のポジションを維持していました。
どの選手も、とにかくスピンをしないように慎重に走っていた気がします。
最終ラップの時に、タクマキッズチャレンジアカデミーの時、佐藤琢磨選手が話していた事を思い出しました。
「大きな目標の前にある手前の目標をクリアしていくことがとても大事」だから僕は、僕の前にいた全日本1位の子を絶対にこのラップで何とか抜かすとその瞬間に目標を決めて走りました。
結果的に8位、全日本一位の子を抜かしてフィニッシュしました。
ただ、8位まであがったけどフロントフェアリングペナルティで結果は11位となりました。

反省としては、ローリングスタートの時、後ろから押されて前の子に当たってしまってから慎重に前の感覚をあけるようにしていた。その慎重になりすぎた結果スタートが前の列と離れる結果になってしまった。
そして全体的にバトルを長くやりすぎた。 バトルを必要最低限にして、ここだという場所まで待って良い局面で抜かせばよかった。
その反省点を次の予選ヒート2に生かそうと思いました。

予選ヒート2

予選ヒート2も11位からのスタートでした。
予選ヒート1のレースの反省点をいかし、スタートは前にぶつからない距離感を何とか維持しながらスタートしました。
スタートして間もなく、2コーナー手前で前の二人がスピンしたのでそれを避けるために、ハンドルを切ってアクシデントを避けたその瞬間に今度は後方右側から、スリップして宙に浮いた状態のカートが僕の真上に振り降りてきました。
そのカートが頭と手に直撃し、痛いと思った時には 共にコースアウトしていました。
でもその時、僕の頭の中で痛みよりもコースに戻るのが最優先だったので、なんとか戻って痛みを耐えながら 前に必死に追いつこうとしました。
痛みと大雨の視界の悪さを我慢しながら、何とか距離を縮めていき一台抜かして17位。
その時は、とにかく痛かったけれど、決勝までは我慢して結果を出そうと考えていました。

決勝

予選でラジエーターとフレームが曲がり修正をかけました。
フロントのナックルも曲がってしまい、何とか他のチームからスペアを借り、参戦することができました。
決勝14位からのスタート。 徐々にあげていき後半で10位圏内までもっていくことができました。
ペース良く前の選手に追いつき、もう少しで抜こうとしていたところ、タイヤのしぶきが凄く前が全く見えない状況のところに、スピンしたカートが停まっていて、気付いた時にはそのまま追突し、更に後ろの子から追突されてしまいました。
追突のショックで首から背中に電流が流れ痛みに襲われたけれど、リタイアする気はなかったのでコースインしてそのまま走行しました。
あとで父に、あの状況はリタイアするべきだと言われたけれど、その時の僕はコースに戻ることしか考えていませんでした。
右手はほぼ動かず、首も曲がらず、今思えばよく走ったなと思います。

諦めずなんとか完走してチェッカーをもらうことができたけれども、後ろのほうからピットインする自分の姿に悔しくて涙が出ました。

翌日、3月26日、首や体が全く動かすことができないので試合をキャンセルするしかありませんでした。
「ヘインはレインが上手いから明日いけると思うよ」そう言ってくれた先生の言葉が忘れられなくてその日は痛みよりも参戦できない悔しさで泣きました。
結局その日は、大雨でレースは中止となりました。

他の選手と話をするファンへインさん

レースに参加して

今回初めてレースに参戦して僕が思ったことがいくつもありました。
僕はメカニックに詳しくなく、走りにも慣れていない。
そんな状態の僕だから最大限の力を発揮できるように、メカニックの先生は必死にベストな状態を僕に代わって見つけてくれようとしてくれていました。

もし僕がメカニックに詳しかったら、先生と一緒になってもっと深く考えられたかもしれない。
自分が乗るカートのことを、乗り手である僕がもっと知る必要がある。
今の僕にはカートの知識が必要だと思ったので、メカニックに詳しくなりたいと思いました。

そして試合の中で感じた「手前の目標をクリアしていくこと」の大切さ。
その時に瞬時に自分の目標を設定しながらレースをすると、レースがもっと面白くなるということを知りました。実際に達成したら面白くなって今度はこの目標!と決めるだけで、モチベーションが上がりました。
目標をその場で作って達成する楽しみに気付けたので、日常のどんなところでも楽しんで活用していこうと思いました。

そしてもうひとつ、僕の中で一番強く思ったことがあります。
このモータースポーツの世界に長く居続けたいと心から思ったことです。
途中で諦めてしまったら、今までの全部が意味をなくしてしまう。
カートに乗るのは僕の夢で、スポンサーの方や両親の夢でもない。
だから全部、僕が100%頑張っていかないといけないのだと気が付きました。
僕がおやつによく食べるポッキーは、母が小さい頃から売っていたという話しを前に聞いたのを思い出しました。
僕が気付いたことにとてもよく似ていると思いました。
僕もポッキーのように長く居続けたい。
その場所にずっと居続けるって、一番大変ですごい努力が必要なのだと
レースに参加して「乗り続けたい」と思ったから気付くことができました。

大好きなカートに乗ってレースに参戦し、僕は多くのことに気が付きました。
レースの結果は華やかなものではなかったかもしれないけれど、レースに参戦したから分かったこと、それが僕の財産となりました。
僕の経験が、いつか誰かの経験になるように、努力を積み重ねていきたいと思います。
僕を応援してくださる方に感謝の気持ちを伝えたいです。
本当にありがとうございました!これからも頑張ります!

グリコサインの前で写真にうつるファンへインさん