セカンドミール効果と攻めの間食
みなさん、間食はしていますか?
ある調査では、仕事中にお菓子をよく食べると回答した人は約6割にのぼると報告されています。小腹がすいた時や、気分転換をしたい時にちょっとした間食をとるのはとても自然な事のように思いますが、果たして健康に及ぼす影響はどうなのでしょう?
そこで、時間栄養学の観点から間食の役割や健康への影響について早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科 薬理学研究室 教授 柴田重信先生にお話しを伺いました。この機会にぜひご一読ください。
セカンドミール効果と攻めの間食
セカンドミール効果とは
前回、朝食やタンパク質の重要性についてご寄稿いただきましたが今回は「間食」について教えてください。
間食についてですね。内容のよい食事を適切な時間にとることが最も重要ですが、健康的な間食をとることも有用です。
食後の高血糖が身体に良くない影響を及ぼすことは皆さんもご承知だと思います。例えば、朝食の食事内容が良いと、昼食時の血糖値の上昇が緩やかになります。ファーストミール(朝食)が、セカンドミール(昼食)に影響を及ぼしたということで、セカンドミール効果と呼ばれています。つまり、健康的な食事を心がけていると、その効果は次の食事にも表れるということを意味します。
これは、朝食と昼食の関係だけでなく、昼食と夕食、あるいは夕食と朝食の関係でも起こります。ですから、健康的な間食をとれば、次の食事の高血糖を抑えることも出来ます(図1)。
セカンドミール効果のメカニズム
「間食」にも次の食事の血糖値の上昇を緩やかにするセカンドミール効果があるということですがどのようなメカニズムなのでしょうか?
このようなセカンドミール効果が起こる仕組みについては、いくつかの可能性が指摘されているものの、詳細なメカニズムについては分かっていません。
昼食が12時で夕食が21時の場合は、夕食が17時の場合に比較して、同じ食事でも高血糖になりやすいことは良く知られています。これはインスリンの分泌や効きが弱くなるので、高血糖になりやすいという解釈です。その一つの理由が、夕食が遅いと、脂肪分解が進み、血中の遊離脂肪酸の濃度が増加しインスリンの働きを弱くするということです。実際、遅い夕食を2回に分け、17時頃と21時頃に分けると、21時の食事は高血糖値になりにくいのです。この研究では21時には半分の食事しかとっていないので、血糖値の上昇が抑えられたとの解釈もできますが・・・。
遅い夕食が高血糖になりやすく、分食が高血糖を抑えるのであれば「間食」にも効果がありそうですね。
我々の研究では、分食ではなく17時に間食として余分に食品を摂取した場合でも、遅い夕食の高血糖を抑えることが確認出来ました。これこそがセカンドミール効果であると言えます。
セカンドミール効果の二つ目の有力なメカニズムとして腸内細菌叢を介する機構があります。食物繊維を含む食事は糖の吸収を遅くすることで血糖値を上げにくくしますが、未消化で大腸に到達した食物繊維は腸内細菌の餌になります。
大腸では酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸と乳酸が作られます。短鎖脂肪酸類は大腸の受容体に作用し、その結果、GLP-1と呼ばれる物質を作ります。GLP-1はインスリンの働きを強めることが良く知られており、2回目の食事でのインスリンの働きを強めて、高血糖にならない可能性が指摘されます。
食後の高血糖を防ぐのに、食事と食事の間を開けすぎないことや食物繊維がよい働きをするということですね。その他にも何かありますか。
食事を取ると当然血糖値が急激に上昇しますが、インスリンの働きで低下する時に、筋肉への取り込みが大いに貢献します。最近では、食後に後片付けのような軽い運動でも良いので行うと、食後の高血糖が予防できるといいます。つまり、ファーストミールで、タンパク質が豊富なものを取っていると、骨格筋の刺激になり、セカンドミールの時に筋肉での糖の吸収が盛んになれば、おのずと高血糖は防ぐことが出来るということです。朝食や午前の間食では、タンパク質を有効に使うことをおすすめします(図1)。
タンパク質の摂取や食後の運動も高血糖を防ぐのに有用なのですね。食後のウォーキングもとても良い事のように思えてきました。 ところで食物繊維の効果について、もう少し詳しく教えていただけないでしょうか。
菊芋やイヌリンによるセカンドミール効果
水に溶ける水溶性食物繊維のひとつにイヌリンというものがあります。イヌリンは、菊芋やゴボウなど主にキク科の植物の根に含まれているのですが、タマネギやニンニクにも含まれているごく一般的な水溶性食物繊維です。
我々は、5gの菊芋パウダー(3g程度のイヌリンが含まれている)を、朝食時に摂取するグループと夕食時に摂取するグループで、連続的に血糖値をモニターしました。
その結果、それぞれの食事中の血糖値は低下しましたが、朝食の後、イヌリンを摂取していない昼食や夕食の血糖値も菊芋パウダー摂取前と比較すると、上がりにくく、セカンドミール効果(昼食)、さらにサードミール効果(夕食)が見られました(図2)。
夕食時の菊芋摂取は翌日の朝食の血糖を低めにしましたが、昼食はさすがに前日の夕食から時間が経っているのでサードミール効果は見られませんでした。つまり、水溶性食物繊維の摂取は、次の食事まで良い効果を示すことが分かりました。
朝食の菊芋(食物繊維摂取)が夕食にまでよい影響を及ぼすのですね。 間食でも食物繊維の効果を上手く活用できるのでしょうか。
攻めの間食
高血糖を抑えることができるセカンドミール効果を間食に応用する考えが広がってきています(図1)。攻めの間食と言っていますが、健康に良い間食を取り食後の高血糖を抑えようという考え方です。
昼食から夕食までの間が長くなってしまう人は夕方に良い間食を取ることで、夜間の高血糖のリスクを軽減させることができます。
我々は、間食を取らず遅い時間に夕食をとる、間食として150Kcal程度の普通のビスケットをとる、炭水化物の半分を食物繊維などに置き換えた健康ビスケット(被験食)をとる試験をしました。その結果、間食をとらないときが夕食後の血糖値が一番高く、次にビスケットをとった時、健康ビスケット(被験食)をとった時は高血糖になりにくいことがわかりました(図3)。
育ちざかりでもないのに間食をとるのは健康によくないと思いこんでいましたが、夕食後の高血糖を抑制できることを知り驚きました。間食にも役割があるのですね。
ところで、夕食後にもついつい何か食べてしまう人も多いと思うのですが・・・。
夜食も一種の間食ですが、これについても試験結果があります。間食無し、普通のビスケット、炭水化物の半分を食物繊維で置換した健康ビスケット(被験食)を、夕食と就寝の中間点で摂取しました(図4)。その結果、3群間で就寝中の血糖値に差はありませんでしたが、食物繊維を含む健康ビスケット群(被験食)では血糖の振れが少なく安定的でした。また、翌朝の朝食後の高血糖も抑制されました。一方で普通のビスケット群は間食なし群や健康ビスケット群に比較して総睡眠時間が短くなってしまいました。
どうしても夜食を食べたい時は、食物繊維が多く含まれるような健康的な間食にするべきでしょう。