運動中の分岐鎖アミノ酸（BCAA）とクエン酸摂取による疲労軽減効果

運動による疲労を早期に回復し、コンディショニングを整えることは、競技パフォーマンスを最大限に発揮するためにも、重要な課題です。クエン酸やアミノ酸などの中には、疲労軽減効果を有するものがあります。クエン酸やアミノ酸の疲労軽減効果に関する研究報告を紹介します。

クエン酸がもたらす効果

クエン酸は、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類や梅干などに含まれる有機酸であり、運動による疲労時には酸味の欲求が高まることが経験的に知られています。クエン酸は生体内エネルギー代謝において中心的な役割を果たすことが報告されています。
また、日常生活において疲労感を自覚する健常成人を対象に、レモン果汁由来のクエン酸2700mgを配合した飲料を1日1回、28日間摂取させるプラセボ対照試験が実施されていますが、クエン酸飲料群はプラセボ群と比較して主観的評価で疲労感の軽減作用、緊張度、退屈度、いらいら感の緩和作用がみられたことが報告されています。

出典：薬理と治療2007年7月20日発行vol.35 no.7

BCAAがもたらす効果

BCAA（バリン、ロイシン、イソロイシンという3種の分岐鎖アミノ酸の総称）は、筋肉で酸化分解され運動中に骨格筋のエネルギー源となります。運動時におけるBCAA摂取は、中枢性の疲労物質であるセロトニンの脳への取り込みを抑制することから、疲労および主観的な運動強度を軽減することが報告されています。
また、タンパク質代謝に関しては、BCAA摂取により骨格筋のタンパク質合成は亢進し、同時にタンパク質分解が抑制されると言われています。さらに、BCAA摂取は運動による骨格筋からのクレアチニンキナーゼ（Creatine Phospho Kinase：以下CPK）の上昇を抑制することが報告されており、筋損傷を軽減する可能性が示されています。

クエン酸とBCAAの併用がもたらす効果

クエン酸やBCAAを単独で摂取した場合の疲労回復効果やパフォーマンスを改善することは先ほど記載した通りですが、BCAAとクエン酸の同時摂取による疲労回復効果を検証した試験は報告がありませんでした。
そこで近畿大学の明神らは、血液検査から得られる肉体的疲労の客観的指標から、クエン酸とBCAAの同時摂取による運動性疲労の軽減に対する効果の検証をアメリカンフットボール部の選手を対象に行いました。3日間にわたり1日3または5時間の運動負荷試験を行い、負荷試験中に1)クエン酸+BCAA、2)BCAA 、3)プラセボ（クエン酸もBCAAも含まない）の各試験サンプルを摂取してもらいました【表１】。

試験翌日に事後採血を実施し、血清中のCPK値を筋損傷マーカーとして測定しました。運動負荷試験実施前後の血清CPK値の変化を、図1に示します。すべての群において血清CPK値は、運動負荷試験実施前に比べて運動負荷試験実施後は有意に上昇しました（p<0.05）。特にプラセボ群については、3群の中で最も高値を示しました。さらに、運動試験実施後の血清CPK値を群間で比較したところ、クエン酸+BCAA群における試験運動負荷試験後の血清CPK値は、プラセボ群に比して有意に低値を示しました（p<0.05）。一方運動負荷試験実施後の血清CPK値をBCAA群とプラセボ群の間で比較しましたが、有差な差は認められませんでした。この研究の結果から、運動中のクエン酸とBCAAの同時摂取により血清CPK値の上昇が抑制され、筋損傷を軽減できる可能性が示唆されました。

出典：薬理と治療2016年2月20日発行vol. 44 no.2