運動に鉄分はなぜ必要か。ヘム鉄で効率的に吸収しよう

酸素の力で呼吸持久力を高めよう

しっかり休んでいるはずなのになんだか体がだるい…実はその症状、鉄不足が原因かもしれません。鉄は酸素を運ぶだけではなく、エネルギーを作りだすための必須成分です。運動する人はエネルギー必要量も増えるため、どうしても不足しがちな成分でもあります。鉄分が体に与える嬉しい影響、そして効率的な鉄分補給の仕方、選び方をご紹介します。

運動に鉄が必要な理由

鉄は人体に必要なミネラルの一種で、成人の体内に約3~5g存在しています。*1
運動時は呼吸で酸素を必要とするのはもちろん、運動で体にかかる衝撃により体内の赤血球がこわれやすくなり、どうしても日常生活より鉄を消費しやすくなります。運動に取り組むときは鉄分の吸収に気をつけると、さらに効果的といえます。

*1 出典:厚生労働省、e-ヘルスネット、鉄

エネルギー生産に重要な鉄

体内にある鉄のうち60~70%は細胞内のヘモグロビンに存在します。そして肝臓・脾(ひ)臓・骨髄中には貯蔵鉄として20~30%を蓄えています。
赤血球の成分の約99%はタンパク質と鉄を材料とするヘモグロビンです。ヘモグロビン内の鉄は酸素を運ぶだけでなく、酸素を使ったエネルギー代謝サイクルにも働いています。また呼吸やDNAの合成・修復、薬物や異物等の代謝など、細胞内でのエネルギー代謝にも関係しています。
鉄の摂取と消費のバランスがとりにくくなり、ヘモグロビン内の鉄が不足すると、体内に貯蔵されている鉄から供給されて生命活動の維持が行われています。

必要量の増加

筋肉が増えると、筋肉を動かすためのエネルギーと酸素が必要です。激しい運動、筋肉量の増加に見合った血液、そして赤血球を必要とするため、材料となる鉄の必要量も増加します。これは成長期における筋肉の発達をともなうときにもみられます。

排出量の増加

運動強度の増加は体内への衝撃も強く、赤血球が壊れやすくなる溶血反応が見られます。消化管や尿路系からの出血が見られる場合もあります。気温や湿度が高くなることによって多量の汗をかきやすくなり、鉄分排出量が増加することもあります。

効率よく鉄分を補給するには

食品中の鉄は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」のいずれかに体内で変化しており、その吸収率や役割も違います。効果的な鉄分補給の方法をご紹介します。

ヘム鉄と非ヘム鉄

タンパク質と結合するヘム鉄、ミネラルとして存在する無機鉄である非ヘム鉄があります。

ヘム鉄は動物性タンパク質の食品に多く含まれており、体内への吸収率は10~20%といわれます。*2単体でも体内に吸収されやすいため、鉄分補給に効果的です。多く含まれる食品には、牛肉・あさり・うなぎ・いわし・かつお・まぐろ・レバーなどがあります。

非ヘム鉄は植物性タンパク質の食品に多く含まれていますが、非ヘム鉄のままだと体内への吸収率は2~5%といわれています。*3多く含まれる食品には、大豆製品(納豆など)・ほうれん草・小松菜・切干大根などがあります。

吸収率だけみるとヘム鉄を摂る方が効率がいいように思いますが、動物性タンパク質にはビタミンB6、ビタミンB12が多く、植物性タンパク質には葉酸が多く含まれています。
どちらも赤血球の合成に必要な成分です。バランスよく摂取するよう心がけましょう。

*2、*3 出典:厚生労働省、e-ヘルスネット、貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう

ビタミンCとタンパク質を一緒に摂る

吸収率に劣る非ヘム鉄も、ビタミンCと一緒に摂ることで吸収率アップが期待できます。

胃酸の分泌を活発にする

十分な胃液がある状態だと、栄養分の吸収が促進されます。梅干しや酢の物などすっぱいものを一緒に摂ったり、十分な量の食事をよく噛んで食べたりすることで胃に負担をかけることなく消化を促進し、栄養吸収の働きをよくしてくれる効果が期待できます。

タンニンの摂取は控える

緑茶やコーヒーに含まれるポリフェノールの一種タンニンは鉄の吸収阻害の一因となります。鉄とタンニンが結合するとタンニン鉄となり、腸での吸収をしにくくなります。鉄は腸管からの吸収で貯蔵量を調節しているため、食事中、あるいは食後すぐに、お茶やコーヒーを大量に飲用することは控えましょう。

鉄分不足から起こる症状

鉄が体内に不足した状態はエネルギー不足・酸素不足を招きます。単なるスタミナ不足なのではなく、鉄が酸素を運べないことから起こる症状ともいえます。

持久力の低下

必要な鉄分を補給しないまま、スポーツ・発汗などで鉄分を排出した場合、必要な酸素が行き渡らず、エネルギーを作り出しにくくなるため体の持久力が低下していきます。

疲労感・筋力低下

鉄が不足すると、筋肉中で酸素を供給するミオグロビンも不足します。筋肉に酸素が行き渡りにくくなるため、だるさや疲労感の増加・筋力低下などの症状がみられることがあります。

必要な量

食事から吸収される鉄は吸収性が低い成分であり、食事からの鉄吸収は10~15%程度であるといわれています。また、定期的に激しい運動を行う人は消化管失血や足裏からの接地衝撃などのリスク分を考え上記必要量の30%増の量が必要といわれています。*4
また食事からの摂取では過剰摂取になる心配はありませんが、サプリメントや鉄剤などの必要以上の摂取は体に悪影響を与える場合があります。パッケージの服用目安量を守ることや、医療機関にて適量を処方してもらいましょう。

*4 出典:「統合医療」に係る情報発信等推進事業

まとめ

鉄分は日常の生活を送るために欠かせないエネルギーを作りだす成分です。食材の選び方や食べ合わせを考えると、効果的に摂取することが期待できます。
貧血予防になるという観点以外には知られていなかったことも多いかもしれません。貧血といわれたことがない、それほど激しい運動をしていないからいままで気にしなかった、というときでも鉄分摂取に気を配り、適切な量と効率的な摂取でより快適に運動を続けましょう。

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