パフォーマンスに関わる栄養・休息のススメ
パフォーマンスを上げるための食事の考え方
アスリートの食事というと、一般の人とはまったく違うメニューや食べ方をしているイメージがあるでしょうか? 確かに、試合前後の食事や補食(間食のことをアスリートの食事サポートでは「補食」と表現します)など、スポーツをしているからこそ必要な栄養素の種類や量、摂るべきタイミングの調整を行うことはありますが、基本となる食事は一般の人と大きく変わらず、バランスのとれた食事を摂ることが重要です。
バランスの良い食事がパフォーマンスの発揮につながる
バランスのとれた食事とは、主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物の5種類を揃えて食べる食事を指します。5種類それぞれの主な働きと食品をまとめたものが以下の表です。
主な働き | 主な食品 | |
---|---|---|
主食 | エネルギー源になる | ごはん、パン、麺 |
主菜 | 筋肉、骨、血液などの材料になる | 肉、魚、卵、大豆製品(豆腐・納豆) |
副菜 | 疲労回復、コンディショニングに役立つ | 野菜、いも、きのこ、海藻 |
牛乳・乳製品 | 骨の材料になる、筋肉の動きを助ける | 牛乳、ヨーグルト、チーズ |
果物 | 疲労回復、コンディショニングに役立つ | 果物、100%果物ジュース |
これらを組み合わせて食べることで、必要な栄養素の摂取量を増やすことができます。このバランスのとれた食事をベースとして、アスリートが不足しやすい栄養素や積極的に摂りたい栄養素を多く含む食品を選んだり、調理方法を工夫したりすることがアスリートの食事のポイントです。さらに、試合でパフォーマンスを発揮するためには、トレーニングを通じてフィジカルを強化すること、リカバリーやケガの予防を効果的に行うことなどを意識して、それらの目的に合わせた食事や補食を摂れるようになることも、より高みを目指すアスリートには欠かせません。
しかし、仕事をしながら競技をしている人にとっては、主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物を毎食揃えて食べることは難しい場面もあると思います。そのような場合には、まずは主食、主菜、副菜の3種類は毎食必ず揃える、もし副菜がどうしても摂れなかったり、少なかったりしたときは、次の食事やその日のうちに多めに食べるなど1日の中で調整する工夫をしてみてください。1日で調整することが難しい場合は、2〜3日かけて調整することから始めましょう。そして牛乳・乳製品と果物を食事で摂りにくい場合は、補食で摂る方法もおすすめです。
脂質をコントロールして味方にする
筋肉量増加のためにたんぱく質を積極的に摂っているという人も多いと思いますが、タンパク質だけを摂れば良いのではありません。どの栄養素も単独で身体の中で働くわけではなく、チームスポーツと同じようにチームワークが重要になります。栄養素はそれぞれが互いに影響し合って体内で働くということを忘れてはいけません。例えば、たんぱく質が体内で分解されてできるアミノ酸の代謝には、ビタミンB6が必要です。そのため、たんぱく質摂取量を増やすときにはビタミンB6の摂取も意識すべきです。また骨の成長や骨折予防に必要な栄養素としてカルシウムを挙げる人は多いと思いますが、カルシウムだけでなく、カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、骨を作る働きをするたんぱく質、ビタミンC、ビタミンKなどの栄養素も必要です。そのため、さまざまな栄養素をうまく摂取できるように主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物を揃えながら偏りのない食事をすることが重要なのです。
また、体脂肪の増加を気にして、揚げ物を避けたり、脂質が少ない食品ばかりを選んだりしている人をよく見かけますが、アスリートには脂質もうまくコントロールして味方にしてほしいと思います。脂質の主な構成要素である脂肪酸は大きく分けると飽和脂肪酸(肉や牛乳などに多く含まれる)と不飽和脂肪酸(ごま油、オリーブオイル、魚などに多く含まれる)があります。不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)は持久力や筋の炎症緩和に有効であることが研究で報告されているため、アスリートにとってぜひ食事で摂っていただきたい脂肪酸のひとつです。不飽和脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸も健康維持に必要な栄養素ですので、体脂肪の増加を防ぐために脂質の摂りすぎには気を付けながらも、さまざまな食品に含まれる脂質を有効に摂取しましょう。そしてEPAを摂取するためにも、主菜に積極的に魚を食べることも強くお勧めします。
何が足りていて、何が不足しているのか?自分の栄養状態を理解する
アスリートと一言で言っても、年齢、体格、性別、競技や種目はそれぞれです。加えて、同じ競技や種目などでも練習や試合内容、オフの過ごし方などで必要な食事量・内容には個人差があります。さらに消化吸収能力なども個人によって異なるため、その人に必要なエネルギーや栄養素の量を細かいところまで正確に示すのは難しいものです。トップ選手の中には、管理栄養士などの専門家から体重、体組成、血液検査の結果を定期的に評価してもらい、食事の指導やアドバイスをもらう選手もいますが、一般のスポーツ競技者で、このようなサポートを受けている人はまだ少ないのが現状です。そのようなサポートなしに、今よりも栄養状態を改善し、パフォーマンスやコンディションの向上を目指すには、まずは自分の食事の状態を知ることが第一歩になります。自分の食事を客観的に評価することで、不足している栄養を補い、自分に合った食事習慣をつくっていくことでパフォーマンスやコンディション向上につなげましょう!
自分の食事の現状を把握する方法として、私も監修者として関わらせていただいた「コンディションチェックサービス」があります。このサービスでは、食生活に関するいくつかの質問に回答することで、不足している可能性のある栄養素を知ることができます。不足している可能性のある栄養素を、どのように食事で摂ればいいかの食べ方も知ることができるので、今日からでも食事の改善につなげていただくことができます。ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
小澤 智子(おざわ さとこ)/管理栄養士・株式会社ユーフォリア
管理栄養士として多くのプロアスリートやジュニア選手の身体組成評価・栄養サポートに従事する。2014年にはサッカー日本代表男子のコンディショニングサポートも担当し、現在はサッカー育成年代のチーム等にて栄養サポートを行っている。