日本災害食学会顧問
甲南女子大学名誉教授
奥田和子 氏
テーマ: 災害備蓄食のあり方について 第1回(全3回)
自助こそが減災のキーポイント
地震の活性化、台風やゲリラ豪雨による洪水、土砂崩れなど・・・。近年、日本が自然災害大国であることを改めて感じさせる事象が頻繁に起こっています。「災害は忘れたころにやってくる」はひと昔前のこと。いまは「災害はいつでも、どこにでも、突然やってくる」ものとなり、もはや「他人ごとではなく、自分ごと」なのです。
日頃、熱心に健康管理に取り組んでいても、いったん災害に襲われると健康が損なわれるリスクも急激に高まります。この健康崩壊を最小限にとどめ得るのは、個々人です。「自然災害に遭遇した時 でも、自分自身の健康のために食べ物や飲み物を事前に用意しておきましょう」、これを「自助(じじょ)」といいます。
自助の意識を高めることこそが減災のキーポイントです。
過去の教訓を生かして今後の備えを
日本はこれまで、阪神・淡路、新潟県中越、東日本、熊本と数々の大震災に襲われました。しかし、残念ながら過去の教訓が今の防災対策に十分に生かし切れていない点もあるのが実情です。企業でもBCP(事業継続計画)を策定して、災害時の被害を最小限に抑える準備をしているところもあります。一方、その必要性は感じつつも具体的な対策が全く講じられていない会社もいまだに多くあります。
個人や家庭も同様で、「置き場所がない、面倒だ、すぐには災害は来ない」などと理由づけをして、水や食料の備蓄を二の次にしていませんか。
冒頭でも触れたように、もはや、天災は忘れる前にやってくるものとなっています。「起こってから初めて気づく」から「起こる前に気づき、準備する」習慣を定着させたいものです。
会社など法人の場合の危機管理
会社などの法人の場合、言うまでもなく、多くのステークホルダーに対する責任があります。この場合のステークホルダーには、消費者(顧客)や株主だけでなく、従業員、得意先、地域社会なども含まれます。すなわち、会社自体が自助の役割を担う必要があるのです。
具体的には災害対応を担当する部署です。社員が大事な仕事を継続維持するには健康な状態であることが大前提であり、そのためには食べ物と飲み物の準備が待ったなしに必要なのです。
また、現代社会ではほぼすべての製品やサービスが、多くのサプライチェーンで成り立っています。それだけに、もし自社が災害に遭遇して生産の復旧やサービスの提供にかなりの時間を要するとしたら、それは自社の問題だけにとどまらず、その取引先へも大きな影響を与えるでしょう。
さらに、災害時に地域住民が会社に救援を求めてきたらどうでしょう。会社も地域社会の一員である以上、むげに無視はできないはずです。 従業員に対しても、取引先に対しても、また地域社会に対しても、危機管理対応ができているといないとでは、周囲のその会社を見る目が変わってくるのではないでしょうか。
では、何をどのように準備すればよいか
準備は簡単なようで実は難しい。最も混乱を招くのは災害が起こった直後の3日間です。まず、のどが渇く、お腹が空く、トイレに行きたくなる。すべて待ったなしの生理現象です。これらに即座に対応できるかどうかが問われます。家庭や個人の場合でも、会社や団体の場合でも、準備すべき内容はほぼ同じですが、若干違いもあります。
食べ物と飲み物の備蓄に
必要な基本的な4つのポイント
- 1.ふだんから食べ慣れたもの
- 2.おいしいもの
- 3.室温で保管できるもの
- 4.発災直後3日分とそれ以降に分けて、分量は1週間分が必要
会社では家庭や個人の場合に比べて最大公約数がつかみにくいものです。それでも上記の4つが災害備蓄食の基本的なポイントになります。そのうえで、食べる人たちの嗜好・ニーズをくみとり、年令、性別、必要なエネルギー量などを勘案して、具体的な食品を選びましょう。